Home > Featured > 生成AI台頭による波紋 〜日系企業が備えるべきこと〜

ChatGPTリリース!
Windows、iPhone登場レベルの衝撃

 「ChatGPT」の快進撃が止まりません。2022年11月のサービス公開以来、わずか2か月でアクティブユーザ数は1億人に達したとされています。アクティブユーザ数が1億人となるのに、Instagramが2年半、TikTokが9カ月かかったことを考えると、驚異的な成長スピードといえます。

 ChatGPTは、サンフランシスコの非営利団体OpenAI社が開発した、自然言語処理技術を用いた人工知能を搭載したAIチャットサービスです。GPTはGenerative Pre-trained Transformerの略で、AIによりテキスト文やプログラム、イメージ画像などを作成する、生成AIと呼ばれています。いままでAIはその有用性が大きく喧伝されてきましたが、一般の人々が使うには敷居の高いものでした。ChatGPTの登場により、プログラムなどの専門知識が必要なく、我々が使っている普通の言葉で「かんたんに」使えるようになったのです。このAI利用の一般化が想定よりも早い時期におこったことで、いままで想像もし得なかった画期的なサービスが生まれる可能性があります。またはシステム環境や法制度など周りの体制が整っていないことなどから社会の大変革が起こるかもしれません。この状況に東京大学の太田邦史理事は「人類はこの数か月でルビコン川を渡ったかもしれない」とコメントしています。

ChatGPTの仕組み
「対話」できるAI

 ChatGPTはその名前のとおり、GPTというAIエンジンをチャット型で使えるようにしたサービスです。ユーザが質問を投げかけると、AIにより回答がかえってきます。ChatGPTでは単純な質問だけでなく、AIで分析してほしいデータを投げることもでき、また追加の質問をしていくことで、より希望にそった回答や詳細な情報を得ることができます。またChatGPTには、APIという外部とつながる仕組みがありますので、他のアプリケーションからでも利用できるようになっています。

 ChatGPTの最大の特徴は自然な対話ができることです。ChatGPTは大量の自然言語データを学習することで、人間のような自然な回答を生成することができるようになっています。たとえばChatGPTで『矛盾の意味を小さい子供向けに説明してください』と入力すると、『言ったことと行動があっていないこと』との回答があり、リンゴなどをつかったかんたんな例文もつくってくれます。『大人向けに説明してください』と入力すると、『同じ文脈や状況において、相反する事柄や意見が存在し、論理的な整合性が欠如していることを指します』とより多くの漢字熟語を用いて正確な意味を教えてくれます。例文も食生活などを用いて高レベルのものが提示されます。AIが作成する文章は、機械的で感情がない…というイメージがありましたが、それが大きく覆されようとしています。知りたい情報があるときは、ウェブサイトを検索して探すというスタイルから、AIに質問をすれば親切に教えてもらえるという形に変わっていくことでしょう。

ChatGPTの概要構成

ChatGPTの概要構成

ChatGPTの弱点?

 自然でわかりやすいChatGPTの回答ですが、残念ながら情報の正確性においてはまだ懸念があります。生成AIは言葉の後ろにくる可能性が高い言葉をつなげていく形で回答を作成しますので、文章の意味を理解しているわけではなく、情報の正確性を保証していません。実際、作成された回答が正しくないことは多々あり、間違った情報がさも正しいかのように記述されてしまうため正誤判定が難しい面があります。特に無料で公開されているChatGPTの学習データは2021年9月までのものですので、情報の正誤は人間が判断する必要があります。

企業での生成AI利用の注意点

 前記の弱点はあるものの、ChatGPTは誰もが使えるとても便利なAIツールです。マイクロソフト社はChatGPTとの連携に積極的に取り組んでおり、自社検索サービスやOfficeアプリへの組み込みをはじめており、有料版ChatGPTと同等レベルの機能を使うことができます。グーグル社も猛追の姿勢をみせており、Bardという生成AIサービスを提供し始めました。特殊なプログラムやITの知識がなくてもかんたんに使えるということが昨今の生成AIの躍進の背景ですので、生成AIサービスを使わないという選択はむずかしいでしょう。しかし、生成AIへのユーザ理解や、法制度などの対応が整っていないのも事実で、リモートワークの普及などで管理者の目が行き届かない状況では、少なくとも左記の点に注意する必要があります。

①会社の企業データや個人情報データは使わない

 AIは学習することによって成長していくものです。各生成AIサービスがどこまで入力されたデータを学習しているかはわかりません。企業の機密データを入力して、それが学習されてしまった場合は、外部の不特定多数に広がってしまう危険性があります。

②「過信」や「依存」しすぎない

 前述したように生成AIは、回答の正確性を保証していません。また無料で提供されている新しいサービスですので、サーバー負荷や法的な問題により、急にサービス中断・停止となるかもしれません。利用できなくなった場合に、業務に大きな影響が出てしまうことは避けるようにするのが肝要です。

③詐欺メールに注意する

生成AIサービスは誰にでも使える、外部システムとの連携が容易なツールです。まだ法的な規制も整っていませんので、悪用されてしまう可能性は大いにあります。まるで人間と話しているような自然な応答ができますので、詐欺メールなどにはより一層の注意が必要です。

生成AIを活用できる業務分野

 オフィス事務などの間接業務、テキストや画像、プログラムを作成する仕事のほとんどがAIに置き換わると予測され、AIが代替できる仕事の採用を中止したり、人員を解雇する企業がでてきています。一見、マイナスのようですが、人手不足に苦しむ在米日系企業にとっては大きなメリットとなり得ます。もちろん生成AIは身近な日常業務でも恩恵をもたらします。日本語での指示で英文メールを書いてくれたり、英文レポートを添削してくれたりと、日系企業で働く皆様の大きな助けとなってくれることでしょう。

 生成AIはプログラミングなど専門的な知識は必要ありませんが、有効な回答を得るための質問の仕方にはコツがあります。回答における生成AIの役割や、入力内容と出力内容を明確にするなど、実は人間への仕事の依頼とあまり変わりません。習うより慣れろで日常的に使っていくことで、生成AI活用のアイディアが生まれてくることでしょう。例えばChatGPTをどのような業務に使うことができるのか? ChatGPTに聞いてみましょう。

カスタマーサポート

 ChatGPTは、顧客の質問に迅速かつ正確に回答することができます。また、顧客のニーズや感情を分析し、適切な対応や提案を行うことができます。

コンテンツ作成

 ChatGPTは、与えられたキーワードやテーマに基づいて、文章や画像などのコンテンツを生成することができます。また、コンテンツの品質やオリジナリティを評価し、改善することができます。

教育

 ChatGPTは、学習者のレベルや目標に合わせて、個別化された学習プランやフィードバックを提供することができます。また、学習者の興味や動機を高めるために、ゲームやクイズなどのインタラクティブな要素を組み込むことができます。

生成AIを飛躍のチャンスにするカギは?

 生成AIを動かす上で一番大事なものは「データ」です。データは21世紀の石油との言葉どおり、AIによりデータはまさに企業を動かす燃料となりつつあります。現在進行中であるとされる第4次産業革命は「データの時代」とされ、企業がAIを活用しながら競合他社と差別化して勝ち残っていくための源泉となるものが「データ」です。

 昨今、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が提唱されていますが、紙帳票などアナログでの運用をしている企業は、その部分をできるだけデジタル化していくことが、このAIの波に乗り遅れないようにするための最優先課題となります。業務情報が即時にデータ化されることで、AIサービスとのリアルタイムでの連携が可能となり、爆発的に生産性が向上することもあり得ます。

 今までAIを利用するにはIT人材が必要とされていました。ChatGPTをはじめとする生成AIの登場で、実際にデータの現場にいる業務担当者がAIを活用することができるようになりました。自分の会社にしかない、活きたデータを集めることができれば、生成AIのチカラを得て、企業の大きな飛躍のチャンスとすることができるのではないでしょうか?

 

 《執筆》
Business Engineering America, Inc.
President 館岡浩志
https://www.bengusa.com/

早稲田大学、中国遼寧師範大学を経て、ミシガン州立大学卒。28か国700社以上の導入実績をもつ日本発グローバルERP「mcframe GA」の初代プロダクトマネージャとして企画から開発、製品リリースまでを担当。同製品のプロジェクトマネージャとしても3年間で世界7か国12社への導入を担当する。中国拠点駐在や、製造業向けIoTソリューション企画ののち、2018年春より北米地域のお客様をITのチカラでご支援すべく、米国拠点設立とともにシカゴ近郊に駐在中。

 

《企業概況ニュース7月15日号 vol.296掲載》

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