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〝モンゴル宛のラブレター〟

 澄み渡る青い空、雄大なモンゴルの大自然を舞台に、日本人青年タケシとモンゴル人アムラの2人が繰り広げるロードムービー。〝自分のアイデンティティ探し〟をテーマに、大草原での旅を通じ、心を通わせながら成長していく主人公の心の機微を描く。KENTARO監督と、主演タケシを演じた柳楽優弥(やぎら・ゆうや)さんに「ターコイズの空の下で」のビハインド・ストーリーを聞いた。

© Turquoise Sky Film Partners, IFI Production, KTRFILMS

© Turquoise Sky Film Partners, IFI Production, KTRFILMS

 この映画で特徴的なのは、対話が少なく物語が進んでいくシーンが多いこと。大草原に住むモンゴル人は口数も少なく〝言葉がなくても、心は通じる〟という考え方を大切にしているという。こうした背景を、この映画に込めたかったとKENTARO監督は説明する。柳楽さんやアムラさんの表情や肉体による機微に富んだノンバーバルな表現や、モンゴルの神秘的なカルチャーは、作品を観る者たちの想像力を掻き立てる。

 10年前、友人の誘いで訪れたモンゴルに魅せられ、いつかこの地の美しさを映像に収めたいと思ったKENTARO監督。モンゴルの超人気俳優であり、日本と何かを作りあげたいと考えていたアムラさんとの出会いが、この映画制作を動き出させる大きなきっかけとなった。「この作品は、ある意味〝モンゴル宛のラブレター〟のようなものです。モンゴルは、夏にTシャツで走っても汗をかかないほどドライな気候で、大自然や動物たちの姿も美しい。こんなに美しいところがあるのかと感動しました。他のアジア諸国とも違い、とても魅力的で、私が強い影響を受けた国なのです」。

 「例えば、モンゴルが教えてくれたことの一つに〝外見ではなく、中身が一番大事〟というものがあります。モンゴルでは丁寧に包装されたものが良いという感覚がなく、彼らにとって大切なのは、その中身だけなのです。役者も同じです。外見に気を遣わなければいけない職業ではありますが、中身を伴うことが大切なのだと思います」。

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© Turquoise Sky Film Partners, IFI Production, KTRFILMS

© Turquoise Sky Film Partners, IFI Production, KTRFILMS

 柳楽さんにとって、この作品はモンゴルを訪れる良いチャンスであり、この機会を与えてくれた監督には感謝している。主人公タケシと旅するパートナーとして登場するモンゴル人のアムラさんをはじめ、多くのモンゴル人俳優との共演機会は大きな学びの場となり、俳優として自分に物足りなさを感じていた時期に良い刺激を与えてくれた。「僕が一番気に入っているのは、アムラさんとの乗馬シーンです。プライベートで200頭もの馬を所有しているというアムラさんは馬に乗るのも上手く、直接乗り方も教えてもらうこともありました」。

 撮影現場で、KENTARO監督から与えられる指示や演出は、これまで柳楽さんが経験してきたものとは少し違った。そこに、どういった監督の意図が込められているかは分からないが、役者としては心地よく、とても興味深いものが多かったと、柳楽さんは当時の撮影現場を振り返る。「ヨーロッパ各国で生活してきた監督の経験や感覚が色々と散りばめられているのだと思います。決められたアングルやセリフではなく、いい意味での遊び心があり、演出に自由さを感じました。カメラのアングルなどテクニカルな部分で意見を戦わせていたかと思えば、少し雨が降ったら、こちらの方がいいかもしれないと撮影場所を変えるなど、こうしたこだわりと柔軟性の適度なバランスを面白く感じました」。

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主演の柳楽さんとKENTARO監督 © Japan Society

主演の柳楽さんとKENTARO監督
© Japan Society

 今作は、日本、モンゴル、フランスの3カ国合作となる。制作にあたり、KENTARO監督が意識してきたのが〝ユニバーサル〟という言葉。「ユニバーサルに面白いユーモア、ユニバーサルな悲しさ、ユニバーサルな感動といったものがあります。例えば、アフリカン・アメリカン(AFRICAN-AMERICAN)の映画を日本でそのまま上映しても、笑いのポイントは違う。もちろん参照するものがないので仕方ありませんが、それは〝ユニバーサルなユーモア〟ではない。今回の映画では、このユニバーサルについて強く意識した作品に仕上げています」。

 合作というと、海外にクルー全員を連れていき、日本のシステムで撮影される作品が多いのだという。そのため、現地の人が見れば違和感を感じることも多く、今回KENTARO監督は、撮影クルーに日本人、モンゴル人、フランス人、オーストラリア人、チリ人など様々な国籍を持つスタッフを揃えることでそれを回避したそうだ。現地のモンゴル人たち全員が、納得できる場所、納得できるストーリーラインを追求し、〝自分自身が、モンゴル人監督であるかのように撮ること〟を目指した。「モンゴルの大自然の中での撮影では、持っていけるものに制限も多く、何が必要で、何を置いていくかなど、全てを知り尽くしたモンゴル人クルーの意見にはいつも助けられました」。

 こうしたリーダーとして多言語で指示を出しながら組織をまとめるKENTARO監督の姿に、〝初めて会うタイプの人間だ〝という感覚を受けたと柳楽さんは言う。一方で、KENTARO監督の柳楽さんへの第一印象は、〝すごくピュアな人だな〟というもの。今回の作品では、柳楽さんの頭の中の、演技ではなく、野生(アニマル)的なセンスを大切にしたいと考え、こうした柳楽さんの野生的な魅力も、しっかりと作品の随所に散りばめられている。

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 ディズニープラスやネットフリックスを通じ、世界中のプロモーション手法が大きく変わった。世界に出たいという気持ちも強く、そこでもしっかりと評価される俳優になりたいと柳楽さんは言う。「〝日本の俳優〟というブレない軸を自分の中にしっかりと持ちつつ、世界にチャレンジしたい。まずは個人、そしてアジア人、次に世界です。ただ海外を目指すのではなく、キャリアとしても恥ずかしくない、理想の自分に近づいていきたいと考えています」。

 今回、主人公のタケシがアムラという友人に出会えたのと似た様な感覚を、僕はKENTARO監督との出会いに感じています。撮影を通じて多くを学べたことはもちろんですが、何よりもKENTARO監督と出会えたことが、僕にとっては最大の喜びだと思っています」。

 

© Turquoise Sky Film Partners, IFI Production, KTRFILMS

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「ターコイズの空の下で」(2020年製作、上映時間95分)
監督・プロデューサー KENTARO さん
主演 柳楽 優弥 さん
http://undertheturquoisesky.com

 

 

 

 

 

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