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アメリカのファンが
「マンガや アニメ」に夢中になる理由(後編)

JAPAN SOCIETY
映画部 ディレクター
ピーター・タタラ さんMr. Peter Tatara
映画部 フィルム・プログラマー
アレクサンダー・フィー さんMr. Alexander Fee

www.japansociety.org

 

 

 2023年8月6日、ニューヨーク夏の風物詩の一つでもある日本映画祭、第16回「JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜」(以降、ジャパン・カッツ)が好評のうちに幕を閉じた。パンデミック後初の完全対面イベントということもあり、気になる日本映画を大きなスクリーンで観ようと多くの観客が詰めかけ会場は熱気に包まれた。主催するジャパン・ソサエティー(JS)映画部ディレクターのピーター・タタラさんとフィルム・プログラマーのアレクサンダー・フィーさんに開催の経緯を振り返りながら、映画祭の魅力や今後の展開についてお話を聞いた。(後半)

《前半はこちら》アメリカの日本映画ファンや映画作家たちが集える映画祭に

 

Q.ジャパン・カッツを率いる、お二人の経歴をお聞かせください

ピーターさん ジャパン・ソサエティ(JS)のメンバーに加わる前は「アニメNYC」という全米で2番目に大きな日本のポップカルチャーイベントの初代ディレクターを務めていました。2017年に立ち上げイベントは参加者5万人規模にまで成長し、過去には機動戦士ガンダムのクリエイターである富野さん、進撃の巨人のクリエイター諫山さんをお迎えするなどしてきました。JSとは20年来のお付き合いになります。ジャパン・カッツをはじめ、他の各種イベントにもファンのひとりとして参加していました。そんな時に、コロナ後の映画チーム拡大をサポートするディレクターとして参加しないかというお話を頂き、6ヶ月前からチームに加わっています。アニメNYCは、その年の最新人気アニメに焦点を当てた1年のうち3日間だけのイベントなのですが、JSは1年を通じて映画のプログラムを構成でき、さらに日本映画を全体的に取り上げられることも魅力的に感じました。

フィーさん 私はシカゴ大学の学生が運営する映画協会Doc Filmsで、映画プログラマーのキャリアをスタートしています。そこで35ミリ、16ミリのプロジェクターフィルム投影法やプログラミングについて学び、キュレーターがいかに重要であるかを知るきっかけとなりました。私は世界各国の映画に興味があり、ポーランド、韓国、イタリア、ラテンアメリカなどの映画を取り扱っていました。その際に日本の映画監督であり俳優である鈴木清順さんの映画シリーズを上映する機会に恵まれ、当時博士課程に在籍していたウィリアム・キャロル氏(現在はアルバータ大学助教授)がシリーズのキュレーターを務め、私は運営を担当しました。そこで使用した35ミリフィルムがDoc Films上映後に、ニューヨークのJSでも上映されたのをきっかけに、JS映画事業部で構成される大胆で興味深いプログラミングに興味を持ちました。私は2年ほど前から参加しています。

 今年2月には鈴木清順さんの生誕100周年を祝い、国際交流基金と一緒に6作品シリーズを開催しました。このシリーズのキュレーターは、先に話した鈴木清順シリーズのキュレーターだったウィリアム・キャロル氏で、このような形で再度一緒に仕事ができたことを非常に嬉しく思っています。私はより学術的な分野で日本映画を学んでいる途中ですが、全体的には1930年から1990年代ぐらいの古い作品に興味があります。

Q.日本カルチャーのファンにとって、その魅力とは

ピーターさん 日本のアニメとマンガは、いうまでもなく非常に人気のあるコンテンツです。実写映画と比べても、世界からのアニメやマンガに対する賞賛の声は非常に多いです。アメリカの視聴者がアニメやマンガにハマる最大の理由は「他にそういったものがない」であり、まずはビジュアルに興味を持ち、次第にストーリーやキャラクターが気に入りファンになっていく流れが一般的です。一種のストーリーテリングであり、特にアニメファンの大半を占める10代の観客にとって、西洋社会では見られないストーリー展開や、その詳細描写、こだわりの強さに夢中になります。アメリカの一般的なコミックである「バットマン」や「スパイダーマン」「スーパーマン」などと比べてみましょう。アメリカのコミックでは、体格に恵まれた富裕層ビジネスマンが登場し、空飛ぶマントやメタルスーツを着用して闘うシーンが多くみられます。アメリカのティーンネイジャーにとっては、そこに響くポイントは見つけにくく、対して「鬼滅の刃」など日本のマンガやアニメ作品では、自分たちの抱える問題と同じ彼らの共感ポイントが数多く織り込まれ、主人公に自分自身を投影できるのだと思います。

Q.日本の企業ができることとは

ピーターさん まず言えるのは、アメリカのオーディエンスが見たいのは、その独特な〝日本らしさ〟や〝ストーリー〟です。アメリカ市場向けに変更されたものは、誰も望んでいません。日本そのままが詰まったコンテンツを体験したい──これが彼らの求めることです。マンガやアニメ、映画産業に関わる日系企業担当者が知っておくべきことの一つに、その作品が、ドメスティックな感覚ではなく、グローバルでも通用するものなのかを確認するということがあります。今の時代、オンラインで誰もが簡単に視聴者にリーチできます。フォローされるのを待つのではなく、計画を立てて積極的にコンタクトし、彼らの求めている声に耳を傾けていくことをお勧めします。最近の良い成功事例に「マクロス」があります。マクロスは間違いなく最大のコンテンツの一つであり、これまで正式にアメリカに来たことがありません。マクロスを所有する日本企業ビックウエストがしてきたことは、直接アメリカに来て、現地のファンに会い、製品やストーリーについて話をすることです。この動きにより、マクロスがアメリカに初めてくることになり、次のムーブメントを作りはじめています。これと同じように、他の企業も直接アメリカに来て、現地ファンたちと関わり合う機会を増やすといった地道な活動を続けていくことが、非常に重要だと思っています。

 誰がオタクで、スーパーファンなのか見分けることは簡単です。しかし、何気なく興味を持つ潜在的ファンもたくさんいるのです。こうした層にマンガやアニメを紹介し、少しずつファンの数を広げていくことが重要です。鬼滅の刃のTシャツは着ていないかもしれません。それでも映画を楽しみにしているかもしれない。こうした層に地道にリーチしてファンを増やしていくことも、新しい流れの一つなのです。

 JSでは、ジャパン・カッツの他にも30を超える映画を毎月上映し、それとは別に6〜10本の映画をまとめた小規模シリーズイベントも年2回ほど企画しています。ぜひ、私たちに会いにJSにいらしてください!

《前半》アメリカの日本映画ファンや映画作家たちが集える映画祭に

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