KDDI America, Inc.
社長 兼 CEO 大石 聡 さん
1989年の北米進出以来、ICT(情報通信技術)を中心に、在米日系企業のビジネスを支えてきたKDDIアメリカ。社内ネットワーク構築はもちろん、DX化やセキュリティ対策、サーバーやクラウドの運用保守など、アメリカでビジネスをする上で欠かせない存在となっている。また、データセンター事業「テレハウス」では、ニューヨーク、ロサンゼルスに続き、新たにカナダ・トロントを加えた北米3拠点体制で、業界プレゼンスを高める。これまで30年以上にわたり積み上げてきたものを、今後どのように成長させていくのか。今年4月、KDDIアメリカ社長に就任した大石さんにお話を聞いた。
〝新しい価値〟の創出
コロナの状況も落ち着き、在米日系企業でも様々なプロジェクトが動き始めている。こうした中、業務プロセスの効率化だけに留まらず、IT・通信を活用した〝新しい価値〟の創出──新規ビジネスに繋がるDX化に、経営者たちの大きな期待が寄せられる。各スタートアップ企業やパートナー企業との協力体制を組み、自分たちには何ができるのか──常にアンテナを張り巡らせながらKDDIアメリカでは新しい提案を続けている。
新しい価値を求めてDX化を進めれば、サイバーセキュリティ対策も複雑化していく。近年では、社内にある情報資産は安全という神話が崩れ、情報資産にアクセス可能なものは全て疑う〝ゼロトラスト〟という概念も定着してきた。セキュリティが緩慢になりがちな海外拠点が狙われるケースも増えており、小さな穴から大きな問題になる前にしっかりとした対策を取ることが大切だと、大石さんは企業経営者たちに警鐘を鳴らす。
加速するコネクティッドカー事業
数多くのビジネスを手掛けるKDDIアメリカだが、今、一番成長が期待されている分野が〝コネクティッドカー事業〟となる。KDDIは20年以上も前から、様々なパートナー企業と共にIoT事業に取り組んできた。そこで蓄積された膨大なノウハウが、次の展開へと動き始める。特に「コネクティッドカー」の成長速度は目覚ましく、これまでの位置情報や走行距離、残存燃料の確認、エンジンの遠隔始動やこじ開け警報の他、よりエンターテイメント性を重視したアイデアが求められ始めている。
「例えば、インカーWi-Fiを利用して、車内でネットフリックスを楽しめたり、よりリアルな音で音楽を聴けるとしたらどうでしょう。今のユーザーが求めるものは、新しい生活スタイルに合わせた車内空間です。さらに自動車メーカー側がユーザーと繋がることで、動向分析をしてビジネスモデルをさらに洗練させていく。こうしたエキサイティングな役割を皆様と共に作っていく。こうした立場にいられることを誇りに思います」。
非日系企業にもKDDIを
KDDIでは、コネクティッドカー向けにグローバル通信プラットフォームを設置し、現在2000万回線超が稼働しているが、最大マーケットである北米は大きな部分を占めている。日系企業各社との強い絆を大切にしながら、KDDIアメリカが今、挑戦しているのが非日系市場の開拓だ。テキサス州ダラスでは、米国人を中心としたコネクティッドカー部隊を置き、すでにドイツ大手自動車メーカーとのビジネスが進んでいる。これを機に、自動車業界のみならず船舶や家電など、様々な企業との商談を重ね、KDDIの名前をアメリカ市場に定着させていく。
「ベライゾンやAT&Tなど米大手通信事業会社とも、この非日系市場開拓の動きにより、さらに親密になっています。お互いの強みを持ち寄ることで、さらに新しい展開ができる。我々がパートナーの皆様と苦労しながら立ち上げ、品質を向上させてきたこの基盤を活かし、新しいチャンスを掴んでいきたいと考えています」。
現場と共に解決策を探る
ドイツ、シンガポール、ベトナム、アメリカと、今回で海外駐在も4カ国目となる。アメリカに来てまず感じたのは、そのマーケットの大きさ。アメリカでの成功がグローバル展開へと繋がることも多いため、綿密な戦略だけでなく、ある種の勢いも必要なのだと大石さんは言う。「成功のカギは、KDDIの価値をパートナー企業の皆様に理解して頂き、いかにウェットな関係性を構築するか──ひと筋縄では行かないとは思っていますが、優秀なパートナー企業の皆様と組み、新たな価値創造にチャレンジできることに感謝しています」と、その心情を語る。
「私は現場が大好きです。まず現場を見てお客様と話をしながら、そこで見つけた課題を、現場メンバーと一緒にソリューションを考える。お客様に寄り添い、そしてお客様のビジネスに貢献する──カスタマー・セントリックの形が、これからのKDDIアメリカを大きく支え、飛躍させていくと信じています」。
その他の《今月のひと》
・ディスコ・インターナショナル・インク 社長 大掛 勲 さん
・Kiddleton, Inc. 社長 伊与田 篤さん