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注目のメキシコとコロンビア 日系企業に商機!!

注目のメキシコとコロンビア  日系企業に商機!!

経済低迷の中南米で注目すべき国

資源価格の下落などを背景に中南米経済が低迷する中、堅調な成長を維持するメキシコとコロンビアが企業から注目を集めている。メキシコは自動車産業を中心に多くの日本企業の投資を呼び込んでいる。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の発効により、北米自由貿易協定(NAFTA)のサプライチェーンに日本やアジアのTPP参加国が加わり、輸出製造拠点メキシコの重要性をさらに高める。コロンビアは左翼ゲリラFARCとの和平条約の実現を今年3月に控える。治安の改善とビジネス環境整備の進展に伴い、欧米をはじめ各国企業を引き寄せている。日本との貿易・投資額のシェアはまだ低水準だが、現在交渉が最終局面を迎えている経済連携協定(EPA)の締結により、日系企業にも商機が広がろう。

リーマンショック以来の景気後退

中南米諸国は当面のあいだ景気の低迷に苦しみそうだ。IMFの発表(2015年10月)によると、資源価格の低下とブラジルの景気後退を主な原因として中南米経済は前年比1.5%減、2016年には0.3%減とマイナス成長が続く見込みとなっている。

ブラジル経済の見通しは明るくない。外需の低迷や国内製造業の不調などにより2015年第2四半期の実質GDP成長率は2.6%減を記録、通年では3.0%減のマイナス成長が予想されている。ペトロブラスを巡る汚職問題に揺れる政府は経済回復に向けた効果的な政策を打てずにいる。複雑な税制、インフラの欠如、治安問題など企業活動の障壁となる、いわゆる「ブラジルコスト」の是正も進めることができない。ブラジルの景気後退は2016年に入っても続き、1.0%減を見込む。

経済の低迷はブラジルに止まらない。IMFの予想では2015年のアルゼンチンの経済成長率は0.4%増にとどまり、2016年には0.7%減に落ち込む見込みだ。先の大統領選に勝利したマウリシオ・マクリ氏の豊富なビジネス経験を活かした手腕に期待を寄せる声が聞かれる。だが、外貨規制の撤廃や米ファンドへの債務返済交渉など経済の再建には多くのハードルが待っている。ベネズエラはさらに厳しい。故チャベス前大統領が掲げた「21世紀型社会主義」を引き継いだマドゥロ政権は外貨規制や価格統制を強化してきた。低成長と高インフレに苦しむ同国に原油価格の下落が追い打ちをかけ、同国の経済は2015年には10.0%減、2016年には6.0%減と大幅な後退が予想されている。自由貿易主義を掲げて資源輸出や個人消費の拡大で近年高度成長を記録してきたチリやペルーも資源価格の下落に苦しむ。

TPP合意でメキシコにさらに注目が

資源国がこぞって経済低迷に苦しむ中、メキシコは有望な投資先として注目を集めている。IMFは2015年の同国の経済成長を2.3%増、2016年には2.8%増と予想している。けっして高い水準とはいえないが、自動車を中心とした製造業の好調が経済を下支えしているようだ。

特に日系自動車メーカーの進出が目立つ。2013年末以降の日産やホンダの工場拡張、マツダの新工場稼働に続き、2015年4月にはトヨタがグアナファト州でのカローラの新工場建設を発表した。メキシコの2014年の自動車・部品輸出額(暫定値)は前年比11.9%増の1,094億ドルを記録、とりわけ米国向けの輸出の伸びが大きい。2015年に入っても好調が続き、上半期の自動車生産台数は約172万台、輸出台数は約140万代といずれも過去最高を記録した。トヨタや韓国キアの新工場、ダイムラーとの合弁による日産のインフィニティ生産計画など自動車メーカーによる工場建設計画は目白押しであり、しばらく生産の拡大傾向は続きそうだ。

2015年10月に合意を達成したTPPが発効すれば、メキシコは輸出製造拠点としてその存在感をさらに増すことになろう。TPPはアジア太平洋12カ国(日本、米国、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド)による巨大な自由貿易協定(FTA)だ。すでに参加国の多くと二国間で経済連携協定(EPA)を結んでいる日本にとって、TPPの枠で初めてFTAを締結する参加国は米国、カナダ、ニュージーランドの3カ国となる。そこでTPPの最大のメリットは、日本からの輸入全品目に対する米国の関税撤廃ということになる。日本国内ではすでに食品から工業品まで幅広い分野の企業が米国への輸出拡大に期待を寄せている。

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図1

TPPの二つ目のメリットは、NAFTAの枠で米国、カナダ、メキシコが形成してきた域内サプライチェーンに日本やアジアの参加国が加わることだ。自動車分野の例が分かりやすい。競争力の高い日本車の輸入を警戒する米国は、乗用車に対する現行の2.5%の関税について、日本からの輸入に対しては25年という長い期間をかけて撤廃する。商用車にいたっては現行税率25%の関税撤廃に30年という長い年月をかける。対照的に、メキシコ産に対してはNAFTAの枠ですでに自動車関税を撤廃していることから、TPPの枠でも発効直後に関税を撤廃する旨約束している。つまり、米国は同じTPP参加国の日本とメキシコに異なる関税撤廃スケジュールを設定しているわけだ。企業が関税の減免措置を受けるために満たすべきTPPの原産地規則では、TPP域内産の原料や部品を積み上げることができる、いわゆる「完全累積制度」が採用される。日本の自動車メーカーは乗用車を日本から直接米国に輸出する場合には関税を支払う必要が生じるが、日本産の高付加価値の素材や部品・コンポネント、たとえばブレーキやエンジンなどをメキシコへ輸出し、それらを使用して組み立てた完成車を米国へ輸出すれば関税が免除されることになる(図1)。また、米国は日本産の自動車部品については発効後早い時期に関税を撤廃するため、日本企業にとってはメキシコへ部材を輸出するか、あるいは米国の自動車工場向けに輸出するかなど選択肢が増える。自動車だけでない。ASEANのTPP参加国であるベトナムやマレーシアなどの日系企業が電子部品等をメキシコへ輸出、そこでエレクトロニクス製品を組み立てて米国へ輸出する場合も同様のことがいえる。TPPが発効すれば、まさに「NAFTAとアジアの融合」が起こる。こうなれば、輸出製造拠点としてのメキシコの重要性はさらに高まることになろう。

左翼ゲリラとの和平協定でビジネスに活路

長いあいだゲリラ組織との内戦といった問題を抱えてきたコロンビアもこれからの市場として注目に値する。国内最大のゲリラ組織FARCとの和平協定の実現を3月に控えるサントス政権は、これまでも軍や警察の強化を通じて治安の改善を進めてきた。さらには自由貿易主義を掲げて中南米諸国のみならず欧米や韓国などとFTAを締結、日本とのEPA交渉も妥結まであと一歩のところと言われている。近年には4%を超える経済成長を維持し、2014年には原油価格の急落にもかかわらず前年比4.6%の成長を記録した。中南米3位の4,700万人の人口を有する同国の個人消費の拡大や住宅やホテルなどの建設投資増加など堅調な内需に支えられてきた。

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図2

コロンビアへの対内直接投資は伝統的に米国や欧州諸国が中心だ。2000年初頭には治安の悪化に伴い投資を引き上げる動きが目立ったが、2013年には過去最高の162億ドルを記録、2014年には石油や鉱業部門への投資の減退により対外直接投資は微減となったが、金融や運輸、製造部門への投資は拡大した。日本企業も治安の改善に伴い大手メーカーの進出が増え始めている。生産拠点を持つ日野自動車やヤマハなどを除き、日系メーカーは販社や補修サービスの形態での進出が多い。他方、古川電工がカリ市郊外のフリーゾーンで2014年8月に生産開始、中小企業のキャステムが現地米系メーカー向けに医療機器用精密鋳造部品工場の建設計画を2015年1月に発表するなど、生産を目的に進出するメーカーも見られ始めている(図2)。

日本とコロンビアの経済関係強化を後押しするのが日本・コロンビアEPAだ。コロンビアは乗用車輸入に対して35%の高関税を課している。しかし、メキシコからの乗用車輸入に対しては同国とのFTAにより2005年から関税を引き下げはじめ、2011年には撤廃した。コロンビアのメキシコ産自動車輸入額は関税の引き下げにつれてそのシェアは拡大、2014年には25%を超えた。FTAの効果が明らかだ。日本とコロンビアは2015年9月時点で13回目のEPA交渉を終え、合意に向けて最終段階に入ったといわれる。EPA発効により、日本の幅広い製品に対してコロンビアが関税を撤廃するため、日本企業のビジネスの機会が増えると期待できる。

 

中南米ビジネスコンサルタント 水野 亮 (rmizuno@twinc.com

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