米国パソナのプレジデント・古代賢司氏が、様々な業界のエグゼクティブと対談し、日系企業の今、そして未来について深堀りしていく人気のウェビナーシリーズ。第25回目の今回は、特別企画として、米国経済と雇用政策の現状に詳しいJETRO NY ディレクターの加藤氏と、人的資本経営における指標とデータという観点からHULFT Inc. CEOの丸山氏をお招きし、パネルディスカッション形式で米国経済・雇用情勢、そして企業が持続可能な経営を進める上で今取るべきアクションについてお話していただきました。その一部をご紹介します。
Research & Information Service / JETRO New York
Director
加藤 翔一 氏 Mr. Shoichi Kato
2009年内閣府入府。内閣府では、マクロ経済分野や地方活性化分野を中心に政策立案に携わる。マクロ経済分野では、欧州政府債務危機に際しヨーロッパ経済の動向把握とともに、日本及び世界経済への影響等についての分析を担当。このほか、一億総活躍社会の実現に向けた中長期の経済・財政の在り方のプランニングも担当。地方活性化分野では、岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」の立ち上げやフレームワーク設計などを担当。2023年7月よりJETROニューヨークに出向。
HULFT, Inc.
CEO
丸山 昌宏 氏 Mr. Masahiro Maruyama
慶応大学卒業後、大前研一ビジネススクールにてMBA取得、後にスタンフォード大学経営大学院 LEADを修了。HULFT, Inc.の社長兼COOを務め、2023年4月に同社のCEOに就任。データ連携分野で欧米企業や日系現地法人の需要を着実に獲得。トレンドマイクロ社ではビジネス開発、インキュベーション統括を担当。HULFTの親会社であるセゾン情報システムズでの経歴など、テクノロジー業界で20年以上の実績を持つ。
Pasona N A, Inc.
President & COO.
古代 賢司 氏 Mr. Kenji Furushiro
MBA 取得後、パソナグループの米国法人パソナN Aに入社。営業担当者として、ニューヨークをはじめ、米国東海岸地域を中心に在米日系企業を対象に人材紹介・派遣サービスを提供。また、管理部門(人事、経理、給与計算管理)の業務委託事業を立ち上げるプロジェクトに携わり、人材ビジネスにおいて約10年の経験を積む。2013年よりPresident & COOに就任、2022年10月には(株)パソナグループ米州執行役員に就任し、現在に至る。全米10拠点をベースに、日系企業のグローバル人事戦略を総合的に、また迅速に支援できるよう邁進中。
米国パソナモデレーター(以下、永瀬さん)今回は特別企画編「米国経済、労働市場の動向と在米日系企業が挑む未来」と題しまして、JETROニューヨークの加藤様、HULFTの丸山様、弊社古代の三者にてパネルディスカッションを進行して参ります。テーマを二つ設けさせていただきました。まず1つ目のテーマ「インフレは緩やかに減速、金融政策も利下げと転じ、景気も大幅な悪化は回避というソフトランディングの見方が強いが、労働市場への影響は?」米大統領選挙の雇用市場に与える影響も踏まえつつお聞きしたいのですが、加藤様いかがでしょうか?
加藤さん 大統領選は今後状況が変わっていくかと思いますが、現状はトランプ前大統領とバイデン大統領の一騎打ちになると予想がされています。政権交代した場合、トランプ前大統領が復帰するということになります。その場合を仮定すると、労働の需要・供給、それぞれに影響があると思います。まず需要の方について、バイデン政権の政策ではEVや再生可能エネルギー、インフラ投資を推進し、製造業の雇用も重点にしてきました。しかし、トランプ前大統領は、EVを優遇しないとか、気候変動対策を見直すということを明言していますので、その分野の需要は減少する可能性が高いと予想されます。供給については、再び国境措置が強化される可能性が高いので、フードデリバリーやブルーカラーに留まらず、半導体やIT関連の分野でも移民人材が大きな役割を果たしている今、各所で影響が出てくると考えています。労働供給が大幅に制限されると、労働市場が逼迫し、賃金の上昇へ繋がることも考えられ、インフレが再燃する懸念もあります。
永瀬さん 仮にトランプ政権になった場合、移民政策強化がビザの発行制限にも少なからず影響が出てくると思われますので、労働参加率にも影響が及びそうですね。続いて、二つ目のテーマ「今後、企業が成功に向けて取り組むべきこととは?」に移りたいと思います。
古代さん テーマが広範囲で答えを出すのが難しいですが、特に顕著な部分に関して言えば、組織の在り方に関して。以前はスキルや能力は買ってくればいいというのが、現在はアップスキル、リスキリングといった社員を育てるという考え方に変わってきています。今やアメリカの雇用はジョブ型からプロジェクト型、さらにスキルベース組織へと変遷してきています。スキルベースで各々がタスクを課されて、分業しながらやっていくような形に働き方が変わってきているんですね。そういった部分をツールを利用して可視化していくという流れになってきています。今後は経営者のマインドセットや、この転換の流れに対する認識力を高めながら、人事戦略・オペレーション戦略に生かしていく…という大トランスフォーメーションをやっていかないといけないので、大がかりにはなってきますね。アメリカの多くの大企業ではこの部分が進んでいますので、そこを日系企業はどの様に捉えて変えていくのか、スキルベース組織へどうやって到達するのか、という点が経営者や日系企業の大きな課題なんじゃないかなと、アメリカにて人事の世界を見ていて思うところです。
永瀬さん スキルベースの組織転換、アップスキル、リスキリングと、色々なワードがでて参りましたが、このあたりを実際に進めている企業の状況、また企業側でタレントスキルの可視化を行うツールや仕組みの導入というのがどれ程進められているのか。丸山さん、現状はどうでしょうか?
丸山さん 現状、アメリカはジョブ型、日本は比較的人ベースでジョブローテーションをする型になっていると思います。ジョブ型は、そのジョブが何をするのかということを具体的に定義しているので、定義に合った人材を入れている時点で、その人材がどの様なハードスキルを持っているのかというのが既に可視化されている訳ですね。一方で、ジョブローテーション型は、上司や人事の方は、その人となりを知っているので、その人材がどういう人かというのはわかるのですが、社内全体としてソフトスキルを可視化しにくい訳です。また、ハードスキルはLinkedInなどを利用して積極的に自分たちのスキルを入力することで可視化することが出来るんですけれども、ハードスキルとパワースキルを合わせて、スキルベース組織と考えた時、このパワースキルを可視化するというのは、アメリカにおいても現在試行錯誤中というのが正しいですね。
2023年に生まれたSaaS(クラウド型アプリケーション)の会社は、3万社程あると言われていて、そのうちの大半が米系企業です。今年は7万社以上増えると言われてます。そのほとんどはAIを使った会社です。この中で人材やタレントマネジメント といったツールにおいて、ハードやソフトスキル、コミュニケーションやリーダーシップ能力といったものを可視化していくものが増えています。ツール選定は難しいですが、まずは自社の人材の持っているスキルをデータベースに入れていくことを始めていくのがいいのではないかと思います。
永瀬さん 企業も様々な業態や規模がある中で、まずは人事データを集めるところから始めていく必要があるのではないかなと感じました。今後、企業の成功のためにHR視点でどのようなデータを見ていく必要があるとお考えですか。
丸山さん LinkedInの調査によると、キャリアプランのある会社に長く勤めたいと考える雇用者は約93%に上るという結果がでました。つまり、会社の中でそのような仕組みが全従業員に対して可視化されて、キャリアプランを見せることができるのかということが一つのポイントだと思います。それができていない場合、どの様に作っていくのか。経営戦略から人材戦略に落とし込んでいき、今いる人材をどのようにレベルアップしていくのかというところまで考えていく必要があります。まずはこの取り組みを行うのが重要じゃないかなと思います。
永瀬さん データードリブンなHR、そしてスキルベース組織への転換は今後、労働市場が逼迫していく中で企業がフォーカスしていくポイントの一つになるのではないかなと感じました。
加藤さん 2023年は、UAWを初めとして労使交渉が多い年でした。その中で賃金以外に、ある程度のシフトの柔軟化やスキルアップといったものも多くの労働組合から要望があったと聞いております。柔軟な働き方を考える上で、スキルが可視化されている組織という前提がないと、実現は厳しいです。こういった潮流は、今後更に必要になってくるのかなと思いました。
古代さん ダイバーシティの観点からいきますと、ベビーブーマーからZ世代の中で、特にZ世代の方々は仕事に対する目的(パーパス)が明確に謳われていないと、ドライブがかかりにくい傾向があると言われています。 企業として、また経営者として何を信じているのかという部分を可視化していくことも重要ですね。
永瀬さん 皆様、本日はありがとうございました。
対談のフルバージョンはVHRBPサイトにてご覧いただけます。
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次回のエグゼクティブ対談は 2024年3月6日(水)開催予定です。
詳細こちらにてご確認ください。
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